アメリカの日本酒が世界中を席巻するかもしれない、と言う危機感を感じた。

 

今回旅行でシカゴに来て、酒屋に置いてあったアメリカ製の日本酒を飲んで衝撃を受けた。

 

その日本酒がこれ。

 

momokawa 純米吟醸にごり酒

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『Saké One』というアメリカの酒造メーカーが作ったお酒。

 

元々は青森県の酒造メーカー、桃川とのジョイントベンチャーとして設立されたみたいだけど、ホームページを見る限りはアメリカ人が経営も酒造りもしてるみたい。

酒米もアメリカ産のものを使っている。

 

これが思いのほか美味しくてびっくりしてしまった。

 

正直に言って、ほとんどの人は日本の日本酒(なんか変だなw)よりもこっちの方が好きだと思う。

日本酒の"サケっぽい"臭いとか味が全くなくて、一般ウケする部分だけは全部残してある。

これ日本酒フレーバーのジュースですか?って感じ。

それでいて度数もしっかり16度あるし、純米吟醸なんだから純粋にすごいと思った。

しかも4合瓶で14ドルと手頃な値段設定。 

 

 

 

これを飲むまでは、日本酒みたいな飲み物は日本人以外には無理だろ、なんて思いこんでた。

なぜかと言うと日本酒ってすごく繊細な飲み物で、管理も難しい。

 

光当てたらダメ、常温だとダメ(生酒)、かと思えば開封したあとの味の変化を楽しんだり、開封前に氷温で数年寝かせて味の変化を楽しんだり。

 

味も入れる容器によって違うなんて意見もあるし、温度によっても全然違う、冷たくてもヌルくても、温かくても、熱くてもいける酒なんて他にあるんだろうか。

料理とのマッチングで印象がぜんぜん変わってくる食中酒でもある。

 

日本酒がどれほど奥が深い酒であるか、日本酒が好きな人は全員そう思ってると思う。

 

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でも、こうやってだわればこだわるほど、「あ、これ一昔前の不毛な技術力争いをしてた日本の家電メーカーと少し似てるんじゃない?」って思ってしまった。

 

 

日本人ですら、温度や開封後の味の変化、料理との合わせ方を楽しんで日本酒を飲んでいる人なんてほとんどいないのに、海外の人にそれを伝えることはかなり難しいんじゃないか。

そもそも多くの人はそこまでこだわってお酒を飲んでいないって現実があると思う。

 

 

 

例えばバカ売れしてる獺祭っていう日本酒がある。

けれど、獺祭って日本酒をまともに飲んだことがある人なら、人気ほど旨い酒じゃないっていうのは直ぐ分かる。

決して獺祭が不味いと言っているわけじゃない。

"味と値段だけ"を見た場合に、獺祭だけが他の日本酒より圧倒的に優れている理由は全く無いと言っている。

あれは完全にマーケティング能力による勝利。

 

 

獺祭の売れ方とアメリカの日本酒の意外な美味しさから、

 

多くの日本の酒蔵の主張する"日本酒の良さ"をガン無視して、アメリカの企業がとにかく世界的なシェアを取るためだけの "世界中のみんながおいしく飲める日本酒" を本気で作っちゃったらあっさりシェア負けちゃうんじゃないかなと思ってしまった。 

 

 

日本国内で酒米が足りてない足りてないって言ってる中で、この日本酒はアメリカ産の酒米を使ってるし、本気を出せば一気に生産量も上げれそう。  

それに科学的な成分分析とマーケティング調査ってアメリカの一番得意な分野じゃないの?

 

 

 

「そんな売れるだけの日本酒なんてしょうもない」

「日本酒は楽しみ方がたくさんあってこその酒だ」

「本当に美味い酒はその土地の食文化と結びついている」

「そんなの日本酒じゃないぞ!」 

 

 

こんな風に思う日本酒好きは多いと思う。

僕も個人的にはそう思う。

日本酒の繊細さや奥深さを知った上で味わってほしい。

 

 

けれどもそういう考え方をする以上、世界シェアという考えは捨てなければならない気がする。

もちろん酒蔵によっては「世界シェアなんてくそくらえだ。うちは地元の人に飲んでもらうために良い酒を作ってるんだ」って主張もあると思う。

それならそれで全然良いし、元々日本酒というのはそういうものだった。 

 

 

もし日本酒が日本の酒から世界の酒になるのであれば、なにか象徴的な日本酒が現れると思う。

世界シェアを取った日本酒が一番美味しい日本酒では無いというのは、他のお酒でも食べ物でも、どんなものを見ても明らか。

 

 

それを作るのが日本のメーカーであれば嬉しいような気もするけど、その味を見て「日本の日本酒として、こんな味で良いと思ってるのか」と言いたくなる気もする。

またアメリカのメーカーであれば、それはそれで何だか寂しい気分になると思う。

 

 

日本酒の美味しさは世界的な酒になるポテンシャルを秘めていると確信している。

この将来有望なお酒がこの先どのように作られ、どのように飲まれていくのか、楽しみで仕方がないと、今回米国の日本酒を飲んでふと思った。